沸騰都市イスタンブール

6月29日NHKスペシャル「沸騰都市
第4回 イスタンブール
激突 ヨーロッパかイスラムか

40年来悲願のEU加盟を目指すトルコ。
その首都イスタンブールはアジアとヨーロッパの境界にあります。

アジアとヨーロッパの境界線、イスタンブールのボスポラス海峡。原油を満載したタンカーが、昼夜絶え間なく航行し続ける。東西の十字路に位置する歴史的なこの都市は、好調なヨーロッパ向けの製品輸出を受け、多数の外国企業が進出を果たし、この数年で急速な経済成長を遂げた。ファッション、音楽、若者がひしめく街の様子は西洋の都市となんら変わりがない。

しかし、いま、この都市が、ヨーロッパとイスラムの間で大きく揺れている。スカーフ着用の解禁案に始まったイスラム系与党と、政教分離を求める世俗派の対立が激しさを増しているのだ。実は、経済の分野でも2つの勢力がイスタンブールでせめぎ合っている。

(NHKホームページより)

経団連の会長を努める40代の女性は、財閥出身で代々トルコ経済を牽引して来た家柄という。
彼女はイスラム教徒ではあるが、スカーフをせずEU加盟に向けて忙しい日々を送っている。
建国の父ケマル・アタチュルクによって政教分離が唱えられているが、現政権はイスラム主義政党の流れを汲み、原理主義への運動が活発化している。

一方、ゲジコンドゥと呼ばれるスラム(地方で生活出来なくなりイスタンブールの国有地に不法に家を建てている)は年々増殖を続け、いまやイスタンブールの人口1200万のうち半分が住むともいわれている。
そこではEU加盟のために不法労働者や闇経済を撲滅すべく、ゲジコンドゥの家を破壊し新しい公営住宅を与える事業が進められている。
しかし、法の網からこぼれてしまい手づくりの住居を破壊されたまま立ち退きを一方的に宣言される家族もある。

番組では、急速に近代国家になろうと奮闘するトルコの富裕層と、貧困のなかでしたたかに生きていこうとする人達が対照的に描かれていました。
立ち退きを迫られ家を破壊された男性の言葉が印象的でした。
「彼らは祖父から伝えられているコーランを瓦礫の下敷きにした。そのことがイスラム教徒として何を意味するのか、全く考えていない。そのことに憤りを感じる。
われわれにこのような仕打ちをして、EU加盟など出来るものか」

今回の番組では、僕は中沢新一さんの「緑の資本論」を思い出しました。

イスラームがキリスト教的西欧を痛烈に批判し、それに総力を挙げて反対しようとして来たことの深層には、このような一神教内部での原理上の深刻な対立が横たわっている。原理におけるイスラームは、一神教純正の論理であるタウヒードによって、象徴界と現実界を直接的に結びつけ、想像界(これは女性のものである)のおこなうシニフィアンの戯れを象徴界にしっかりとピン留めすることによって、この現実世界を確かな意味で満たそうとしてきたのだ。
 イスラームの論理は、世界がヴァーチャル化していくことを許さない。風のそよぎも光の瞬きも、そのままにしてアッラーであり、心に浮かぶとりとめもないイメージも、アッラーの意思の現れなのである。イスラームは資本主義を嫌悪し、自分たちの世界にそれが侵入してくることを、重大な悪ととらえるだろう。原理におけるイスラームは、利潤が産み出す豊かな社会を拒否してでも、世界が意味に満たされてあることのほうを、選びたいと考えるのである。その世界は何から何までもが直接的で、資本主義の目からすれば、遅れた貧しい社会と映るかもしれないが、人間が意味に生きる生き物である限りにおいては、はるかに豊かな世界であると、言えるのではないか。

「緑の資本論」p115~116より

イスラム主義政党である与党は、大学でのスカーフ着用を認める憲法改正などの積極的な活動を行います。
イスラム教徒の会社役員で作る起業家連盟は、経団連とは別にイスラム諸国との経済的な結びつきを図っていきます。
番組中では、貧しい家の出身である服飾会社の社長さんが取り上げられていました。

彼は、イスラム女性のスカーフを伝統に縛られずに、カラフルに、ファッショナブルにしていきます。
それはトルコの女性にも、ビジネスの相手にも賞賛をもって迎えられます。
新しく迎えたドイツ人のデザイナーは、肌さえ露出していなければミニスカートや胸を広く開けたワンピースも作れる、と話します。

そして、イスラム主義政党がそれまで積極とはいえなかったEU加盟に向けて動き出します。
オイルマネーに湧き上がるアラブ諸国の、トルコを通してヨーロッパとの経済流通を広げていきたいという意思を受けてのことです。

前回沸騰都市ダッカではグローバル経済に呑み込まれようとしている人々を見ましたが、今回はヨーロッパ化するイスラム、言い換えれば資本主義に呑み込まれるイスラムと言えるのではないでしょうか。

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