再生可能エネルギーだけの未来は来るか

Mason Inman 
for National Geographic News
January 18, 2011

 

エネルギーの80%以上を化石燃料に依存している現代社会だが、環境へ負荷をかけないエネルギーシステム実現に向けての模索も続いている。しかし、風や太陽、波、地熱のみから電力を得る世界に、わずか数十年で転換できるのだろうか?

デルッチ氏らは2009年、デンマークのコペンハーゲンで気候変動会議(COP15)が始まる前、2030年までにこのような改革が無理なく実現するという見解を「Scientific American」誌に発表していた。そして2010年12月、研究の詳細を「Energy Policy」誌で明らかにした。

デルッチ、ジェイコブソンの両氏によると、再生可能エネルギー100%の世界を実現するには、風力、太陽光発電などへの思い切った投資が必要だという。

風力タービン、ソーラーパネルなどのインフラを必要なだけ建設すると、鉄やコンクリートといった資源が大量に消費される。しかし両氏は、コンクリートや鉄などの大量生産には経済的、環境的な制約はほとんどないと結論付けた。そこで、あまり一般的ではない材料の需要についてより詳細に調べることにした。

その結果、ネオジムをはじめとする「レアアース(希土類元素)」の生産が主な障害になる可能性がわかった。ネオジムは磁石の材料としてよく使われる。

両氏は数百万基の風力タービンが必要になると見積もっているが、その発電用モーターを製造するためには全世界でネオジムの生産量を5倍以上に増やさなければならない。それでも、ネオジムが不足する心配はないという。現時点で必要量の約6倍の埋蔵量があるためだ。

今回の研究をふまえ、2030年までに再生可能エネルギー100%の実現を阻む障害はないと両氏は主張している。「技術的には不可能ではない。強い意志さえあれば達成できる」とジェイコブソン氏は語る。

ジェイコブソン、デルッチの両氏は化石燃料と無縁な未来の実現にバイオマスを使用しないと決め、自ら困難な道を歩もうとしている。エタノール、バイオディーゼルなどのバイオマス燃料は現時点で最も利用が進む再生可能エネルギーだが、大気や土地利用に関する悪影響が避けられないためだ。さらに、廃棄物の処理や拡散に関する懸念から、炭素を排出しない原子力発電も除外されている。原子力は現在、世界のエネルギーの約6%を賄っている。

バイオマスを除外すれば、再生可能エネルギー100%の未来は遠ざかる。国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギーアウトルック2010年版」によると、再生可能エネルギーが世界のエネルギー供給に占める割合はわずか13%で、バイオマスを除外すると3%まで下がってしまう。

両氏は、世界のエネルギーの半分を風力、40%を太陽エネルギーで賄うというシナリオを描いている。風や空模様は常に変化するため、依存度を9割まで引き上げると、システムの信頼性を脅かしかねない。それでも両氏は、システムを相互接続し、エネルギー同士の関係性をうまく利用すれば、問題の大部分は解決すると主張している。

「風と太陽は補完的な関係にある。風が吹いていないときは、たいていよく晴れている。逆に、曇りの日は風が強いことが多い」とジェイコブソン氏は説明する。

地熱や波力、潮力のエネルギーは6%程度しか貢献しない筋書きになっている。ただし安定度は優るため、システムの信頼性を高めてくれる。水力発電ダムも4%ほど貢献することになっている。

風、水、太陽エネルギーだけのシステムの信頼性を高める要素がもう1つある。それは、消費エネルギーが化石燃料のシステムより約3割少なくて済む利点だという。「自動車などの内燃機関は、はるかに効率の良い電気モーターへの移行が見込める」とジェイコブソン氏は話す。

しかし、ジェイコブソン氏らの筋書きを実現するには、大きな変化を起こさなくてはならない。完全な電気自動車はまだ市場に出始めたばかりで、現時点の予測では、2020年になっても世界の自動車販売の10%にも満たないとされている。

Photograph by Nelson Ching, Bloomberg/Getty Images

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