30、31日と「NHKスペシャル 戦後70年 ニッポンの肖像
豊かさを求めて」を観ました。
「第1回”高度成長” 何が奇跡だったのか」
「第2回”バブル”と”失われた20年” 何が起きていたのか 」
第1回は、60年代から70年代にかけての“奇跡”と言われた高度経済成長はどのような構造で起こったのか、が当時の関係者の証言を交えて検証されていました。
一言で言えば、アメリカの統治下にあった日本は、経済成長もその占領政策(要はアメリカの利にかなうように)の転換によって引き起こされた、というものでした。いわゆる「朝鮮特需」もアメリカ抜きには語れません。
第2回では、その後80年代に日本を席巻した「バブル」がいかにして発生し、弾けて行ったのか、が堺屋太一、野口悠紀雄両氏をゲストに当時の日銀理事などバブルの渦の目に居た人物たちが登場しました。
バブルもこれまた、アメリカの金融緩和、プラザ合意に引きずられる形によって発生したことがうかがえる内容でした。
一方で、高度経済成長が鈍化し、それまでは銀行は企業への直接投資を行っていたものが上手く出来なくなってきた。しかし預金は増えるために、その運用先として「不動産」にお金が向って行った、という構図です。
「預金」とは、正確には私たちが銀行に預かってもらっているお金ではありません。私たちが銀行に「貸し付けている」お金です。
ですから、銀行はその貸付金を「増やして返さなければ」ならないわけです。預かったままにはできない、わけです。
日本が高度経済成長している間は、企業に直接貸し付けることで利潤を上げることができましたが、企業が低成長期に移行するにつれ、資金の運用も上手くならなくなってしまいました。
つまり、余ったお金が「さらなる増殖を求めて」貪欲にその場を探し回り、それが不動産だった、というわけです。
当時の関係者の証言は、とても興味深いものでした。
特に日銀元理事の佃亮二さんの「俺たちはバブルの戦犯」という発言は印象的でした。日銀の公定歩合引き下げがバブルの後押しをしたわけですが、実はここにも対日赤字が大きな問題になっていたアメリカからの外圧がありました。
公定歩合、今でいう政策金利が引き下げられるということは、単純に言えばお金を市場を大量に流す、ということです。
ここで忘れてはいけないのは、「お金は生まれた時から借金である」ということです。
金融緩和によってお金が出回り始めると景気が良くなったように錯覚しますが、それは「借金が増えた」ことも意味します。
ちなみにアベノミクスでは、下げるところまで下げた政策金利だけではお金を市中に流せなくなったために、それまでは一定の規制があった「日銀の国債引き受け」を緩和したわけです。つまり、借金によってさらなる借金を始めた、のです。そのツケはいずれ、国民に回ってきます。だけでなく、グローバルな影響も避けられないでしょう。
番組の詳しい内容ついては、さっそくブログに書かれている方もいらっしゃるのでそちらを参考してください。
当時の経済界のトップの間では、それまでの日本的経営(家族的というか、終身雇用を前提とした会社と従業員の一体感と責任の上に立つ経営方針。Japan as No.1と言われた技術の基盤ともなる)から、株主重視のアメリカ的経営への方向転換を図るのかが、1年をかけて議論されたそうです。
しかし、暴走を始めた「マネー」の圧力には逆らえず、日本は「企業が勝ち残っていくために」アメリカ的経営、派遣社員制度の改革と進んでいきました。
余談ですが最近、若い友人たちが学生向けに「非就活セミナー」なる企画を開きました。
なかなかコンセプトは興味深いものでしたが、「終身雇用が当たり前」だった当時からすれば「レールから外れること」の敷居は随分低くなったものだ、と感じます。
その時代に「とっくに非就活」をした経験者が語ります(笑)
(個人的には、終身雇用制には馴染めないと考えていました。だからといって、新自由主義と言われるアメリカ的経営がいいとも思っていません。何事にもメリットデメリットがあります。そのことをきちんと理解して、個人的にも社会的にも受皿を広くすることが肝要だと思います)
番組の後半では、ゲスト両氏は今後の展望も語られていました。
曰く、「少子高齢化時代では、製造業でも従来のサービス産業でもない2.5次産業とでも言うべき生産性の高いもの」を産み出すこと、「楽しい日本」を作り出すこと、と言われていました。
間違いである、とは言いませんが根本的な解決にはなりません。
なぜなら、両氏共に結局は成長を前提に話をされているからです。
ここでの「成長」とは、経済的成長、つまり「お金を増やすこと」です。
繰り返しますが、「お金が生まれた時から借金である」以上、たしかに「成長しなければならない」わけですが、「そんなことは不可能」です。あなたも私も、仲良く一緒に成長し続けることなんかできるわけないのですから。
世界中で皆が成長しようとしています。
だから、戦争が無くならない、のです。
環境破壊は止まらない、のです。
貧困は無くならない、のです。
凶悪犯罪は無くならない、のです。
格差は増え続ける、のです。
また、前リーマン・ブラザーズ証券会社代表取締役社長である桂木明夫さんは、「バブルがはじけるのは資本主義である以上仕方ない。金融緩和が行われるといい意味で株価は上がっていく。一方で下がるリスクがある。その繰り返し」と言われていました。
経済同友会の代表幹事になった三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長は「日本は崖っぷちにたっていると認識するべき。収益や技術開発とともに持続可能性を重視し、環境問題も含め、悪いものを残さない。辛い時代」と言われていました
資本主義である以上バブルは避けられない、ということは私たちの経済動向に対する一喜一憂、裏を返せば「お金に対する不安」は常に付きまとう、ことを意味します。
「景気が良くなる」条件には、「私たちの将来に対する不安がない」ことが必要です。不安がある時には、お金は使うことよりも貯めることに回されます。それが景気の悪循環の大きな一因となります。
つまり、資本主義である以上、私たちの多く“持たざる人々”は不安と共に生きていかなければいけないことになります。それはストレスであり、多くの病気の原因となります。
環境問題も含めた持続可能性、とは一体なんでしょうか。
私たちを取り巻く環境は、基本的に増えません。
巨大な隕石がぶつかったり、地球が爆発して多くの部分が宇宙に投げ出されない限り(その可能性もゼロ、とは言いませんが現実的には考慮してもしょうがないでしょう)地球の質量の総和はほとんど変わりません。
原子や分子が形を変えながら循環しているだけです。
その上に、私たちの生活、社会や産業もあるわけです。
しかし、お金は「無」から始まって増え続けます。そこに根本的な矛盾をはらんでいるのです。
そのことをきちんと認識しなければ、今後の「崖っぷちの日本が向かう先」は永遠に見えてこないでしょう。
番組の内容はとても良くできた、興味深いものだっただけに、経済の専門家から「お金の矛盾」にも言及したはっきりした解決策が提示されなかったのは残念でもあります。
しかし、中央銀行制度の改革など、そう簡単にできることでもありません。ならば、個人のレベルでは座して待つしかないのでしょうか。
そんなことはありません。
「お金の仕組み」をきちんと理解することで、必要以上にお金に執着する、経済をお金で考える思考から脱却することができます。節度ある距離を持って、お金と付き合えるようになります。
お金を増やすことは、富を増やすこととは違います。
私たちが考えなければいけないのは、「少しでも不安を減らすこと」です。
そのためには「お金の呪い」から解放される必要があります。
そのためには「お金の仕組みを腑に落とすこと」が不可欠です。
腑に落とすとは、「深い理解をしその理解を潜在意識に根付かせ、自ずと行動する」ようになること、です。