J. Okray
for National Geographic NewsOctober 19, 2010
インターネット検索最大手のグーグルは、投資会社やエネルギー企業と共に総額50億ドル(およそ4000億円) を出資して、深海底送電ケーブルを敷設するプロジェクトを計画している。バージニア州からニュージャージー州まで、アメリカ東海岸の沖合に点在する高エネ ルギー洋上風力発電所を地上の送電網に接続する基幹送電線開発プロジェクトだ。同プロジェクトを請け負うアメリカの送電線開発企業トランスエレクト社によ ると、「Atlantic Wind Connection(AWC)」(大西洋風力送電網計画)プロジェクトでは、約35キロ沖合の海底に送電線を敷設する予定だという。出資者にはグーグル のほか、スイスの投資会社グッドエナジー、日本の丸紅など有力企業が名を連ねる。
◆高まる期待、進まぬ計画
アメリカ東海岸は同国有数の強風地帯だ。風力発電だけで、デラウェア州、マサチューセッツ州、ノースカロライナ州で消費される全電力と、ニュージャージー州、バージニア州、サウスカロライナ州の大半の電力をまかなうことができると再生可能エネルギーの推進団体では試算している。だがアメリカは、洋上での風力発電でヨーロッパに大きく遅れを取っている。アメリ カ初の発電基地となるはずだったマサチューセッツ州東端ケープコッド沖のプロジェクトが、さまざまなレベルでの誘致および反対運動の対立から抜け出せな かったからだ。反対派は、ケープコッドの景観が損なわれたり電気料金の値上げにつながるという理由から不満を表明している。連邦政府は2010年10月上 旬、ようやく施設建設に向けたリース契約署名にこぎ着けた。
また、同じく強風地帯の内陸部グレートプレーンズ(ロッキー山脈の東側に広がる大草原地帯)ならより安価に建設が可能で、洋上の発電所には思うように資 金が集まらなかったという事情もある。洋上発電施設の建設基準が比較的緩やかなテキサス州ガルベストンの沖合ですら、1号機の建設着工が決まったのはよう やく今年に入ってからだ。計画が発表されてから実に5年を要したことになる。
AWCプロジェクトの出資企業は、東海岸地域の洋上風力発電所を地上の送電網に接続し、風量が変動する状況でも安定した電力供給の実現を目指している。これは、風力発電のあり方を変える新しい発想だ。グーグルのリック・ニーダム氏は、「このプロジェクトが実現すれば、再生可能エネルギーの開発が一気に加速するかもしれない」と語る。
◆安定した電力供給と新たな雇用創出への期待
建設予定の海底送電網は、ニュージャージー州北部・南部、デラウェア州、バージニア州南部の4地点で地上のシステムに接続することになっている。送電可 能な電力は6000メガワットの予定で、既存の電力供給網の信頼性が高まり、停電の発生率も減少すると出資企業は説明している。
さらにトランスエレクトのボブ・ミッチェル氏は、「このプロジェクト最大の魅力は、民間投資による産業を通じて新たな雇用が多数創出される点だろう」と話す。
プロジェクトの雇用創出効果は極めて大きいと予測されている。米国エネルギー省によれば、2030年までに総出力5万4000メガワットの洋上風力発電所群が稼動した場合、その運用や保守管理が新たに生み出す常勤雇用は4万3000人分に上るという。5万4000メガワットという発電量は、現在アメリカ国内で稼動している地上風力発電所よりも約50%多い。
また、海底の化石燃料開発の代わりに洋上風力発電の推進を訴えている海洋保護団体「オセアナ(Oceana)」は、大西洋沿岸海域での風力発電事業により20万人分の雇用を新たに創出できると試算している。
◆障害となる行政手続き
AWCプロジェクトを遂行するためには、エネルギー省の連邦エネルギー規制委員会や内務省のほか、中部大西洋岸地域13州およびワシントンD.C.の 電力供給網を管理するPJMインターコネクションの認可が必要となる。また、地上送電網への4つの接続ポイントについても、海岸線から3マイル(約4.8 キロメートル)以内に建設する場合は、現場海域の管轄州から許可を得る必要がある。諸般の事情からトランスエレクトは、2013年に建設を開始したとして も、完成は2021年になる可能性が高いと予測している。
Photograph by Stephan Savoia, Associated Press
編集長より;今後の動きに注目、といったところでしょうか。