原子力発電に立ちはだかるコストの壁

Marianne Lavelle
for National Geographic News
May 21, 2010

エクセロン社は3つの州の合計10か所に原子炉を保有している。しかし、アメリカの原子力発電業界の最大手である 同社は、いま新たな発電所を建設しても利益を得られる見込みはないと考えているという。

オバマ大統領は原子力発電による電力供給の増加を推し進めているが、原子力発電市場は正反対の方向に向かいつつあるという。少なくとも、エクセロン社(Exelon Corporation)の最高経営責任者ジョン・ロウ氏の分析はそうだ。

エクセロンはシカゴを拠点とし、運営する原子力発電所はアメリカ最多である。ロウ氏は、「電力事業における経済状況はこの2年で急激に変化した。アメリカ国内で多数新設されるはずだっ た原子炉も、先行き不透明な状況だ」と話す。

オバマ大統領は“二酸化炭素を排出しない最大のエネルギー源”として原子力をアピールしているものの、“エコ”は利益に計上される要素ではない。ロウ氏 によれば、温室効果ガスを排出する他の燃料の価格を連邦議会が引き上げない限り、原子力発電所の建設コストが火力発電所よりもはるかに高くつくという現状は変 わらないという。同氏は、環境政策における費用対効果を分析するシンクタンク、リソーシズ・フォー・ザ・フューチャー(RFF)が先週開催したワシントンD.Cでのイベントで、「二酸化炭素排出への課税なくして、原子力が市場の激しい競争に勝利できるとは到底思えない」とスピーチしてい る。

ロウ氏は現在も原子力プロジェクトに取り組んでいる企業がある点に言及しつつも、こうした企業は“レートベース方式”という、従来型の規制方式が採用されている州に多いと指摘している。こうした州では電力会社が独占的な立場を持ち、原子力発電所建設にかかる費用を電気料金に上乗せして回収することもでき る。

一方、エクセロンは規制緩和により競争が生まれた州のみで活動し、生産した電力を電力市場へ実際に販売してもいる。天然ガスが豊富に供給され始めたことが大きな要因となり、電気料金が値下がりしているため、原子力発電所を新設しても利益は得られないとロウ氏は考えている。

エクセロンがテキサス州ビクトリアに原子力ユニットを2基新設すると発表した2007年には、同氏も悲観的ではなかった。この計画は、当時数多く提案された計画の1つで、30年間新たな原子炉が建造されていないアメリカにおける“原子力ルネサンス”を予言するものと評された。安全面の 不安に起因する原子力反対の声もある程度和らいだ。巨大な原子炉は太陽光発電や風力発電とは異なり、豊富な電力を安定的に供給することが可能で、二酸化炭素も排出しないからだ。さらに、高コストの新たな原子力発電所の建造に対し、2008年、議会は185億ドル(約1兆6650億円)の連邦債務保証を承認 した。こうした保証は、特にプロジェクトが長期間にわたる承認プロセスを通過できない場合のリスクを考えれば、資金を調達する上で極めて重要なものであるだろう。2010年2月には、アメリカ政府は原子力プロジェクトの予算として、前年度の連邦債務保証額の3倍となる540億ドルを要求し、支援を強化する姿勢を示した。オバマ大統領は、連邦債務保証の初の対象施設をサザンカンパニー(Southern Company)社が所有するジョージア州バークのボーグル原子力発電所に決定した。140億ドルを要する新たな原子炉2基の増設に対し、83.3億ドルの支援が行われることになる。

ただしサザンカンパニーは、これから最終的な承認とアメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)からの認可を得る必要がある。同社の原子力プロジェクトの広報部長を務めるキャリー・フィリップス氏は、プロジェクトは順調に進んでいると述べている。「用地の掘り起こしと伝送線の埋め込みは 完了した。いまは反応や濃縮など一連の処理を行うコンクリートのバッチプラントを敷地内に建設中で、さまざまなことが進行中だ」。

しかしそんなプロジェクトの一方で、エクセロンは2009年にテキサス州の原子力発電施設の建設に遅れを生じさせ、3月には運営許可の申請を正式に取り下げている。同社は今後も許可の得られる用地を探していく予定だが、ロウ氏は先週のスピーチの中で次のように述べている。「“頁岩(けつがん)”という固 い性質を持つ岩石から安価な天然ガスを大量に抽出できる新技術が生まれ、経済状況は根本的に変わった。二酸化炭素対策コストがゼロで価格が4ドルの天然ガスがあれば、原子力発電所の存在価値はなくなる」。ただし同社は、新たな原子力発電所建設の予定はないものの、既存の発電所への設備投資を増やし、発電所の新設と同等の効果を上げていくつもりだという。

ロウ氏がスピーチを行った日と時を同じくして、ドイチェ・バンク・セキュリティーズ主催の電力会議ではNRGエナジー社の最高経営責任者デイビッド・クレーン氏が講演を行っていた。同氏はその中で、原子力が低価格の天然ガスに対抗しうるかどうかは疑わしいと認めつつも、新たな原子力発電所が運用を開始するとみられる2016~2017年には、天然ガスの価格が上昇する可能性もあると述べている。さらに同氏は、気候変動に対するアメリカの政策によって原子力が救済されるときが来ると信じているという。「今後数年で二酸化炭素にコストがかからなくなる可能性などまずないだろう。原子力は二酸化炭素問題に対する究極の方策だ」。

編集長より;日本でも「もんじゅ」が運転再開後、色んな障害がでています。
アメリカでの例をそのまま日本に当てはめるわけにはいきませんが、原発政策がいかに危ういものであるか、今一度考え直す必要あります。
少なくとも言えるのは、原子力発電が未来を担う唯一のものではない、ということです。

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